図書館システムのオープンソース化に関する宣言[案]

 Project Next-Lは,図書館システム開発の主導権を図書館関係者自身の手に取り戻すため,土台となるシステム設計をはじめとした環境整備を行うことを宣言します。図書館関係者の要望を元に標準化されたオープンソース図書館システム(仮称JOLAS, Japanese Opensource Library Automation System / 変更の可能性大)を導入できるようにする計画を推進します。この計画のためにProject Next-Lが開発した仕様書やプログラム,データベースなどは,オープンソース・ソフトウェアを開発される人々・機関・企業などの方のために,すべて無償で公開されます。図書館現場の事務作業の効率化を図り,コストを軽減させると同時に,図書館員・利用者の双方にとって使いやすく,高度なサービスを提供できるシステムを開発し,国民に高度で良質な情報提供を行える環境を整備することをめざします。


 1. 図書館システムの現状に対する閉塞感

現在,公共・大学・学校・専門といった館種を問わず,多くの図書館において図書および利用者の管理のために図書館システムが用いられています。しかし,その多くは,図書の貸出・返却,予算管理といったハウスキーピングを主目的とするもので,情報化社会の進展にともなう情報発信基地としての図書館を十分にサポートできるものとはいえないのが現状です。たとえば近年,大学図書館では従来のサービスを超えて機関リポジトリやサブジェクト・ゲートウェイの作成などの新たなサービスが行われようとしてきています。また,公共図書館においても,小泉内閣の骨太の方針中に「ビジネス支援業務」が図書館の行うべきサービスの中に取り込まれるなど,利用者の要求に迅速に対応したサービス展開はいろいろと考えられます。全くの新しいサービスを考えなくともOPACの検索結果からの直接予約,インターネット上で提供される他のサービスとの連携など,現在の図書館システムの枠組みの中だけを考えても実現されていない機能は数多くあります。

図書館がより良いサービスを提供するためには,利用者のニーズを良く知る図書館員自身が企画をたて,サービスの展開を迅速に行うことが望ましいでしょう。しかし現在使用されている商用の図書館システムの改良の速度は遅いと言わざるをえません。特に,5年などのリプレス時以外にバージョンアップを行おうとした場合,そのための費用の発生などもあって,その更新は事実上不可能ともいえる状況にあります。このような状況では,現在のように図書館外の情報発信環境が短期間のうちに大きく変化していくという状況には全く対応できないといっても過言ではないのではないでしょうか。さらに,図書館システムが複雑になってしまった結果,発売されている商用図書館システムは一般に高価であり,さらに購入後も高額の費用を支出してメンテナンス契約を結ぶ必要があるのが一般的です。学校図書館をはじめとした小規模な図書館では,商用図書館システムを購入する費用を捻出できず,従来からのカード目録を中心とした図書館管理を行っている図書館や,市販のデータベース管理ソフトを用いて図書館員が開発した低機能な図書館管理システムを使用しているところもあります。近年,公共図書館と学校図書館との連携の必要性が指摘されているにも関わらず,このような状況では連携をとるための基本的な環境を整えることも困難といえるでしょう。

 2. オープンソース化の意義とUMLによる仕様書の作成

近年のネットワークの発達にともなって,オープンソースとして開発されるソフトウェアが増えてきました。オープンソースとしての開発は,システムのブラックボックス化を防ぐことにより安心なシステムの開発,開発・改善の迅速化,多くの人の知恵をシステムに注ぎ込むことができます。ソースコードが公開されたソフトウェアというと,かつて図書館システム勃興期に図書館員自身がCOBOL等でプログラミングをしていたような「自主開発」をイメージされるせいか,安定していない,保守できない,たまたま出来る人がいても異動されると続かない,結局高くつく,などのイメージがつきまとっています。

しかし,そのときとは社会的な環境や,さまざまなツールの整備などまったく状況が異なります。最近のオープンソースと製品版ソフトウェアの状況を見れば,安定性に差はないことは明確です。また,UMLを使用し仕様そのものからオープン化することにより,開発者以外もシステムの全体像から細部までを把握することができ,特定の業者以外保守できないという状況を避けることができます。オープンソースのコミュニティにより保守することはもちろん可能ですし,どこの業者にでも保守ができるということでもあります。

私たちは,日本のみならず国際的に通用する多言語対応の図書館システムの開発をめざし,オープンソース統合図書館システムの開発を念頭においた標準仕様書をUMLで作成することをめざします。その際,図書館員および図書館情報学関係教員などの連携により,図書館の現場からの意見を集約した仕様書を作成するとともに,変更が容易な形式での仕様書を作成して,図書館をとりまく状況の変化に迅速に対応できる柔軟な構造をもった仕様書を作成したいと考えています。 諸外国では図書館ポータルや学術情報リポジトリを実現するシステムなども含めて図書館に関わるオープンソース・システムが確実な広がりを見せてきています。日本国内で使用するための基本的な機能を有し,新しく出現した新サービスに容易に対応できるようにするシステムを開発することは,現在の図書館サービスに対して大きな貢献をすることができると信じます。特に,機関リポジトリやオンライン書店との連携,図書館資料のデジタル化といった新しいサービスやコミュニケーション機能等にも対応できるものを作ることは大きな意義があると信じます。そのために,我々は公共財としての図書館システム作成に向けてイニシアチブを取る決意をいたしました。


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